一人一党党

一人一人の、一人一人による、一人一人のための政治制度を!

民主主義を貫く虐殺所(の試案)

すでに捕虜5000名のいる収容所に、新たに捕虜5000名が送り込まれた。
収容房3020号室には、既に捕虜が一人収容されている。
この房に新しく捕虜がひとり放り込まれた。
最初に目を合わせた瞬間だけ、既にいる方の捕虜(以下「先人」)の視線から冷酷な印象を新しい方の捕虜(以下「新人」)は受けた。
しかし悲惨な境遇を共有する所為か、次に看守が現れる頃には、先の印象を新人は忘れて先人と打ち解けていた。
看守「
我が国の名に恥じぬよう、将軍様は民主主義を大切になさる。
捕虜の処遇は捕虜自身10000名による多数決で決めよとの御命令だ。

新人「
なら、俺たちをここから出せ!

看守「
3020号室新入りの公約は『俺たちをここからだせ!』と。
了解した。

新人「!?」
看守「
立候補に当たって一財産要求することが合法化されている、お前たちの似非民主主義国家と一緒にするなよ。
被選挙権については、MAGIシステムだとか初○ミクだとか他県の人間だとかすら真面目に考える者もいるんだ。
今日の私の任務はお前たちの要求の立候補受付だ。
そっちのお前は何かあるか?

先人「
俺は立候補しないでおくよ。
…疑問に思っているようだな、新入り。
明日になれば、俺のやらなかった意味がわかるさ。

予告していた通りに次の日、収容所内の看守総出で投票手続きが始まった。
看守「
候補は以下の4013件。
0号室新入り『新たな捕虜5000名は「将軍様への忠誠の儀」を行う。古い捕虜は捕虜のまま。』
0号室古い方『古い捕虜5000名は「将軍様への忠誠の儀」を行う。新しい捕虜は捕虜のまま。』

新人「
将軍様への忠誠の儀』?

先人「
命令に命懸けで従う証として、豚に拳銃を自分の額へ押し付けてもら…、グヘッ!

看守「将軍様の悪口を言うなー!」
折檻される先人。
看守「
おっと、貴様にも選挙権を認めねばならんから、死んでは困る。
将軍様への忠誠の儀』については私から説明してやろう。
敵国への諜報活動など、功績を挙げた者なら、以後の栄達を約束される。
神聖なる民主主義を似非で愚弄する穢らわしい貴様等の脳髄でも、将軍様の目の前で散華すれば娯楽にはなる。

新人「
先の選択肢二つは、捕虜に紛れ込んだスパイの仕業か。
でも、他の選択肢が選ばれれば問題ないよな。
少なくとも俺が昨日提案した選択肢『ここからだせ!』があるはずだ。
…待てよ?
4013件だと?

看守「
さて、残り4011件を説明せねば。
1号室新入り提案『よろこびグミをよこせ』
2号室新入り提案『俺たちをここからだせ』
3号室古株提案『俺たちを釈放しろ』

ゼィ、ゼィ。
4999号室古株提案『俺たちを国に帰せ』
どれに投票するか、この投票用紙に書け。

新人「
やっぱり、釈放要求の立候補が沢山ある。
俺たち捕虜10000の票でも2000の候補に分散したら、スパイが5人以下でないと負けるかもしれない。
…神様・仏様・看守様、捕虜の間で話し合う時間を頂けますか?

看守「
我々も忙しいんだ。
明後日までには、更なる捕虜のために空室を用意せねばならん。

先人「
迷うな新入り。
俺達のできる範囲で票を集中させるんだ。
俺はお前の、3020号室新入りの候補に投票するぞ!

こうして投票手続きは終わり、次の日になった。
この日も看守全員で任務が行われた。
看守「
多数決の結果を通告する。
0号室新入り、2012票。
0号室古い方、2290票。

3020号室新入り、0票。


3020号室の前を、看守たちに引きずられながら、喚く捕虜が一人通り過ぎる。
通り過ぎる捕虜「
この裏切り者!
俺の票を儚い候補に捨てさせやがって。
お前が『今日処刑されるのは古い方』に投票したように、俺も『今日処刑されるのは新入り』に投票すれば、俺は今日死なずに済んだんだ。

いつの間にか、3020号室の前にいる看守の人数が増えている。
看守「

4999号室古い方、1票。
ゼィゼィ。
将軍様、もう少しお待ち下さい。
生贄を今、お送りします。
おい、古い方、出ろ。

先人は何も言わず、両脇に看守を従えて何処かに行った。
それを見送る新人の視線には、冷酷なものが宿っていた。